薄暗いしっとりとした空間の中で、
水がしとしとと糸を濡らし、
ブンブンと撚糸機が風車のように回る。
水をほとばしらせ糸がぐるぐると旋回する。
糸が生きている、と思う。
丹後ちりめんの特徴である「シボ」と呼ばれる凹凸。それを生み出すのが、水を注ぎながら糸に撚りをかける機具・八丁撚糸機。現役で稼働し、支える職人たちを今なお有する工場は数少ない。そんな稀少な存在のひとつ、1833年創業・現在6代目が運営する株式会社山藤。こちらが手掛ける「一越ちりめん」を、SaboraMiのドレスで使用している。生地を先に織り上げてから精錬を行う“後練り”という手法により、滑らかで美しい落ち感を持つのが特徴だ。
そもそもちりめんとは、縦糸と生糸を強く撚った緯糸を交互に織り込み(=撚糸)、精錬という不純物を取り除く作業によって表面にシボが生まれる白く美しい絹織物のこと。丹後ちりめんの緯糸には強い撚りがかけられており、精錬作業で糸が収縮、縦糸の撚りが戻ろうとする力で、細かな凹凸状のシボが生まれる。
紋紙(=生地を織るために用いられる型紙)が揺れて、正確なリズムでシャトルが行き来する。糸の時点ですでに完成された美しさは圧巻。絹糸は、光を当てると8から9色の光を発するそうだが、合繊であるレーヨンはどんなに品質が良くとも6色。その優しい光沢もまた、多くの人がシルクという天然繊維に魅了される理由でもある。